私的シネマランキング2012 ベストテン

昨年一昨年と同様、今年劇場で鑑賞した映画全136本(リバイバル上映等を除く)をランキング形式で発表したいと思います。年の瀬の忙しい中ですが、良ければお付き合いください。

では、早速ベストテンから。


1位 マダガスカル

前2作は全くの未見で、キャラクターの予備知識も無いまま、たまたま観ただけの映画が一位ってのは自分でも意外過ぎますがw
元々、ファミリームービーなので物語自体はシンプルな作りながら、荒唐無稽なドタバタコメディをベースに、アクション、恋愛、苦悩、友情…これらの要素を多種多彩な音楽と共に矢継ぎ早に詰め込みながら物語は展開し、そのまま全てが結実される大感動の極彩色サーカスショーへ!これだけでも大満足なのに、この後の動物園への帰還からのダブルクライマックスで更なる興奮状態に導く素晴らしい構成。これらを90分の短い時間にギュッと凝縮(ここが重要!)させて最後まで観ている側を多幸感の絶頂のまま突っ走る。
そして、それらを効果的に見せる為にフル活用された3D表現も素晴らしい。個人的には3D映画は敬遠しがちなんだけど、今作は序盤のカーチェイスシーンから、サーカスシーン、クライマックスの一大救出劇まで3Dで鑑賞する事の楽しさ、驚き、凄さを味合わせてくれる。これぞ娯楽作品と言える子供から大人まで楽しめる大傑作。ホントに劇場で鑑賞が出来て良かったと心から思える作品。
キャラクター的には、どれも愛おしく魅力的だが、中でもサブキャラだけど、主役の4頭を喰う勢いで大活躍するペンギンズが最高。どこかシニカルな隊長の台詞に爆笑させられました。勢い余ってペンギンズの短編DVDをまとめ買いしましたよ。ええ。「アメリカでこんな事を言うとは思ってなかったが、…ロシア人が正しい!」



2位 サニー 永遠の仲間たち

80s青春ガールズムービーのド傑作。全体的にある種のファンタジー(とくに少女期)というか、少女漫画を完全実写化したような終始ベタベタな展開なのだが、それをヘンに斜に構えたり、ギャグに走る事なく、ドストレートに描いている。それが途轍もなく心地よくて、こちとら30半ばのおっさんながら上映中は、笑ったり、キュンときたり、ハラハラしたり、グッと涙したりと大変だった。ラストのシークエンスとかもかなりご都合主義な感もあって、俺も初見時はそこが引っ掛かったのだが、2回目の鑑賞時には、「いや、今までの苦労から捉えれば、これくらいの救済があって当然の事!」と納得。この御伽話的な作品に相応しい綺麗なラストだと思うよ。
少女時代のサニーのメンバーはずっとキラキラと輝いており、思わず「ああ、これが懐かき青春の輝き!!」と身に憶えのない想い出にしがみついて虚しくなりましたよ。現代のサニーの皆も、各々、日々の暮らしに疲弊しながらも、過去のサニーの記憶に呼応するように輝きを増していく…。甘酸っぱい想いでの地で過去と現在のナミが交差するシーンはこれまたベタベタながらも号泣必至の名場面。てか、名シーンがあり過ぎてあげたらキリが無い!ただ、この物語を彩る重要な楽曲「Time After Time」がシンディ・ローパーのオリジナル版ではなくカヴァーバージョンだったのは少し納得いかない。せめてエンディングはオリジナルバージョンにして欲しかったなー。



3位 桐島、部活やめるってよ

『サニー』がファンタジー的青春映画の傑作ならば、こちらはリアル青春映画の超傑作。
俯瞰的な視点と半端無いで綴る現実感とほんの少しの優しい魔法を持つ青春残酷物語。大事件の起きないが、色々と燻ってる不穏な状況下でのガス・ヴァン・サント監督『エレファント』というか。クライマックスにおいての、吹奏楽部と映画部という「桐島」という威光の庇護とは無縁の人々が輝き始めるシークエンスには思わず大興奮&大感動。そして、そこからのもう一段階踏み込んだ大オチには思わず息を呑む、一粒で二度美味しい作り。その上、この映画は鑑賞する度に登場人物の数だけ違う物語をこちら側に想起させてくれる、一粒で何度も楽しめる作品。
そして、言うまでもなく今作はゾンビ映画としても最高の一本。よく「ジョージ・A・ロメロゾンビ映画は社会風刺のメタファーである」と言われるが、今作の映画内映画『生徒会・オブ・ザ・デッド』絡みの描写もまさにその通り。最後の台詞でも理解出来るように、これが彼等の中の「半径1メートルの日常」なんだよ!!とくに学生時代は!!「俺達はこの世界で生きていかなければならない」んだよ!!判ってやれよ、先生!(いまさら興奮)。なので桐島は2012の邦画ナンバーワンであり、ゾンビ映画のナンバーワン!



4位 ゴッド・ブレス・アメリカ

「日常に不満を募らせていた市井の中年男がある切欠を元に暴走をし、途中で知り合った少女とムカつく奴らをぶち殺して回る!」という、展開としては去年の私的ベスト1位でもある『スーパー!』と似た感じ。あと『フォーリング・ダウン』+『俺たちに明日はない』といったところか。もう「冴えないオッサンが美少女と人を殺しまくる!(でもプラトニック!)」という設定だけで素晴らしい作品なのは理解出来ようモンです。
この作品の主人公フランクにとってリアリティ番組てのは単なる切欠で、物事全てに漠然と不満を抱えている人間なんだろうと思う。そして、それを自分で理解出来ていない。その部分はもの凄く共感が出来る。
ただ、冷静に考えれば、「俺は正しい。狂っているのは世の中」てのはやはり危険な思想だし、実際、彼等が正義と思っている殺人も物事を一側面からしか捉えられていない短絡的なもので、賛否が分かれるのも理解出来ます。でも、いいんだよ!こんな世界、狂わないとやってられないんだって!!(去年も似たような事を言いました) 
あと個人的に俺は『スーパー!』のラストの展開に不満を持っていたのだが、今作のラストはキッチリと主人公たちの行為も皮肉った上で、映画的に正しい落とし前を付けていてそこも好きな要因。てか、『スーパー!』にしても今作にしても「映画館でマナーの悪い奴は問答無用でぶち殺して構わない」という共通認識なのは至って素晴らしい。



5位 白雪姫と鏡の女王

「白雪姫」という誰もが知っている題材を、石岡瑛子が生み出す豪華な衣装を身に纏ったキャラクターとターセムが造り出すファンタジー感満載の箱庭的美術世界で織り成した見事なファンタジーコメディ。「御伽話の実写化」という設定にこれらの要素が見事にマッチしている。
今まで「美術表現で魅せる人」というイメージだったターセム監督の意外な程のコメディ・センスにも驚いた(『落下の王国』で少しその一片は伺わせる部分あったが)。それに応える登場人物も皆が素晴らしい。一見「流石に太過ぎだろ!」と思ってしまうゲジまゆリリー・コリンズも慣れてくるととても凛々しく魅力的だし、山賊に身ぐるみ剥がれたり、クスリで子犬に変身させられたり何かと大変なアミー・ハマー王子も可笑しいし、「流石、伊達にキャリアを積んでないな」と言った貫禄振りのジュリア・ロバーツも圧倒的な存在感で嫌な継母王女を嬉々と演じている。そして何より、蛇腹の竹馬(このデザインもまた面白い)を器用に乗りこなし戦う、白雪姫の心強い仲間7人の小人も各々個性的で半端なくチャーミング!マジで!彼等と白雪姫とのシークエンスがホントに楽し過ぎて全てニコニコして観てましたよ。終始、きらびやかで賑やかで幸せな気分になる作品。冷静に振り返ると結構ブラックな要素も多いけどね。



6位 レッド・ステイト

最近、当り作に恵まれてなかった印象があるケヴィン・スミス監督会心の一作。
出会い系サイトで知り合った年増女の家に訪れたヤリたい盛りの若者三人組が狂信的宗教集団に拉致されトンデモない恐ろしい目に遭うという「田舎に行ったら襲われた」系ホラー展開でキリスト教原理主義者集団のキチガイっぷりを執拗に描写してから、ジョン・グッドマン率いる特殊部隊と武装した原理主義集団の壮絶な銃撃戦の中で、911以降の政府の過剰な権力支配をコケにした後、クライマックスには一転、黙示録のラッパが鳴り響き、まさかのファンタジー的展開に!…と思わせておいてラストはきっちりケヴィン・スミスらしい皮肉の利いた大オチで笑わせる。
エンドテロップで出演者は「エロ」と「宗教」と「政治」に分けて紹介されるのだが、結局、「何を狂信的に信奉しているか」てことなんだろう。一見すると保守系キリスト教狂信者が一番ヤバい気がするが、よく見ると、もう一方の権力の狂信者もかなりヤバい。ある種、一番無害なのが頭の中がエロばかり高校生達っていうw この辺の軽やかな見せ方はさすが。
聞いた話によると今作は内容にビビって配給会社も手を引いたので、監督が自ら制作費を集めて、自主制作に踏み切ったらしい。ケヴィン・スミス監督の気概感じる作品。



7位 007 スカイフォール

007だから7位と言う訳ではないですが。
これぞジェームス・ボンド50周年の集大成という趣き。もう冒頭の怒濤アクション展開から「これぞ007映画の主題歌!*1」というの出来映えのアデルが歌う主題歌がかかるタイトルシークエンスの段階で脳内麻薬が分泌しまくりでしたよ。『カジノ・ロワイヤル』以降のシリアス路線と本来からある娯楽スパイアクション路線とのバランスが取れた素晴らしい出来で、サム・メンデス監督のエンターテインメント作品対応能力に恐れ入りました。
そしてブロスナン時代から続いた「M」ジュディ・デンチを最後で最大のボンドガールとして配し*2、最後の餞を持たせた上で、レイフ・ファインズナオミ・ハリスに見事に引き継ぎをし、これから始まるボンドシリーズへの更なる期待を膨らませる終わり方も素晴らしい。旧作ファンに対する目配せも心得ていて、そんなに熱心なファンでは無い俺でも、あの車が出てきて、あの音楽が鳴り響いたときには思わず大興奮して、にやにやしてしまいましたよ。掛け値無しに楽しめるエンターテインメント大作だと思います。



8位 おとなのけんか

ジョディ・フォスタージョン・C・ライリーケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツという4名の豪華主演者達が適材適所の好演を魅せるシチュエーションコメディ映画の秀作。
子供の喧嘩を解決しようと集った2組の夫婦。当初は穏便な話し合いで終結させるつもりだったのが、交渉が拗れ2対2のタッグマッチに。それでも最初はクリーンファイトを心掛けていたものの、次第にヒートアップするにつれ両軍入り乱れての大乱闘、終いには敵味方関係無しのバトルロイヤルにもつれ込むというプロレス好きとしては堪らない怒濤の展開。そして、その激しい戦いを誰一人として物理的暴力を振るわずに熾烈な会話の応酬のみで展開する、まさに「大人の喧嘩」な高度な試合組み立てに大爆笑しながらも感心しきりでした。
この壮絶な喜劇をロマン・ポランスキー監督が撮ったというのも意外。ケイト・ウィンスレット史上最高のパフォーマンス、いつものイメージをかなぐってギャーギャーと絶叫しまくるジョディ・フォスター等、珍しいものも拝めます。



9位 ザ・マペッツ

「悪徳石油王に買収されそうなマペットショーの劇場を守る為に、舞台を引退してバラバラになっていた昔の仲間が結集し、再びショーを公演し資金を集めようとする」という展開で、『ブルース・ブラザーズ』が大好きな俺としては、この設定だけで大満足の作品。内容もマペットショーに対する知識皆無の俺でもすんなりと入り込める判りやすい作りで、もう序盤のカエルのカーミットが唄う「Pictures In My Head」の時点で既に世界観に没入してました。ミュージカルシーンも楽し過ぎて、思わずサントラCDを購入してしまった程。



10位 メランコリア

本人自身も鬱病に悩まされた経験もあるラース・フォン・トリアー監督による「こんな憂鬱な世界も鬱陶しい人間関係も煩わしい仕事も滅んでしまえ!!全て滅んでしまえ!!」という至極もっともなメッセージ溢れるたいへん清々しい作品。物語は当然ながら絶望的に陰鬱ものなのだが、徹底して幻想的なビジュアルイメージで彩られた世界はとても美しく、そして、その世界に破滅を齎すラストシークエンスの爽快感は半端なかった。




…てなわけで

1位 マダガスカル
2位 サニー 永遠の仲間たち
3位 桐島、部活やめるってよ
4位 ゴッド・ブレス・アメリカ
5位 白雪姫と鏡の女王
6位 レッド・ステイト
7位 007 スカイフォール
8位 おとなのけんか
9位 ザ・マペッツ
10位 メランコリア


以上が2012年のベストテン。トップ3以降は結構混戦で、30本くらいの作品を取っ替え引っ替えしてました。ギリギリまで迷った11位以下のランキングはまた後日。

*1:別に前作のテーマ曲を批判をしてる訳ではない

*2:実際はナオミ・ハリスがその役回りなんだろうけど