私的シネマランキング2012 11位〜30位

前回発表したベストテンに続いて11位以下の発表。まずは私的シネマランキング11位〜30位までの発表です。この辺は間際までベストテン以内に入れるか迷った作品ばかり。



11位 夢売るふたり

松たか子は「パンの人」である。別所哲也が「ハムの人」の座を退いてから幾年が経ったが、これまでの松たか子のキャリアにおける代表作と言えば「ヤマザキ春のパン祭り」。まだまだ現役で「パンの人」のである。そんな彼女が目をひんむき一心不乱に不味そうに食パンを頬張るシーン。このシーンを観ただけで彼女の今作に賭ける意気込みが判ると言うものだ。マジで。
蜜月の時は過ぎ、人生のパートナーとなったふたり。とある事件を切欠に起きた夫の不貞によって妻の中で何かが狂い出し、人生の歯車は思い計らぬ方向に動き出す。題名は「夢売る『ふたり』」だけど、これはやはり松たか子と被害者である女たちの映画だろう。プライド、焦燥、嫉妬、苦悩、これらの感情に翻弄される女性達に対する西川監督の冷徹な視点が冴え渡る作品。ラストで浮気相手であった鈴木砂羽宛に送り付けた封筒の筆致が切ない。



12位 少年は残酷な弓を射る

邦題から勝手に耽美的で不道徳なミステリーとかだと思っていたが、これはれっきとした『オーメン』とか『ザ・チャイルド』とか『エスター』的な「恐るべき子供」系ホラー映画の秀作。過去のホラー映画なら少年の行う恐ろしい行為に「悪魔の呪い」とか「背徳的な書物」とか「不幸な家庭環境」とか大抵は何らかの理由を提示するのに、今作はそれが全くない(少年の部屋には趣味を伺わせる物、彼の人となりがわかる物が何も無い)のが現在的だと思いました。それ故に不条理な恐怖が画面を支配している印象。



13位 ファミリー・ツリー

「突如降り掛かった事件を切欠に、バラバラになっていた夫婦・家族を再生させようとする」という映画としては良くある設定ですが、舞台を楽園ハワイに設定した事で、物語全体に少し非現実的なムードを与え、とてもシリアスで重苦しい状況なのに全体的に何処か可笑しみさえ感じさせてます。過去のある事件の真相を聴き出す為に、友人宅まで走るシーンのジョージ・クルーニーがドタドタと見事なまでのオッサン走りで、彼の必死さが伝わり愛おしくなりました。



14位 KOTOKO

過去作からずっと「肉体の破壊」に拘っていた塚本晋也監督が、リアル「普通サイズの怪人」であるCoccoとガッチリと対峙して挑んだ結果、文字通りボコボコにされた怪作。ホラー、ラブストーリー、エロス、ヴァイオレンス、コメディとあらゆるジャンルの表情を見せながら、絶望とも幸福とも受け取れる怒濤のクライマックスに至るまで一気に引き込まれてしまいました。




15位 別離

「好きな映画ランキング」ではなく「凄いと唸った映画ランキング」なら圧倒的に1位。二組の普通の夫婦が起こしたあるトラブルから出来た小さな綻びがどんどんと大きくなり、知らぬ間に観ている者ごと地獄の底へと。シンプルな構成ながら、常にピリピリとした緊張感を保ち続ける展開で呼吸困難のようになりながら、結末まで一瞬たりとも目が離せない。鑑賞後の疲労感が半端ないので、何度も観たいとは思いませんが、絶対に一度は観ておいた方がいい傑作。



16位 ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜

黒人差別も根深い1960年代ミシシッピー州で起きた女性達の小さくも勇敢な戦い。定型的なハッピーエンドの少し後にラストシークエンスを持ってきている構成が素晴らしい。恐らくエイブリン達は自らの勇気ある行為に対して何らかの理不尽な代償を受けることになるだろう。しかし、戦いを終えた彼女達は今までと違い、前を見て一歩一歩確実に進んで行ける。そして、何より見事なのは重苦しく過酷なテーマで重厚で暗い作りになりがちな物語の中にしっかり「笑い」の要素を織り交ぜているところ。だから2時間強の長尺の作品でも最後まですんなり入り込めるし、感動の度合いも際立つ。差別主義者のヒリー役を演じたブライス・ダラス・ハワードが見事なナチュラル・ボーン・ヒールっぷりも凄い。



17位 ミッドナイト・イン・パリ

個人的にウディ・アレンに大した思い入れはないが、て言うか、どちらかというと敬遠していた方なので、もしこれが過去作のように主演がウディ・アレン自身だったら、「またべらべら小煩くて、自己憐憫だけは人一倍の鼻でかチビが!少しは黙れ!」と終始イライラしてたかも知れないですが、主役のオーウェン・ウィルソンがとても魅力的だったので最後までニコニコと観れました。彼の監督作品の中では比較的肩の力が抜けた印象の良作。



18位 捜査官X

この邦題で勘違いしそうになるんだけど、原題の『武侠』(武術と侠気)の名が示す通り、あくまでドニー・イェンが主役。「過去を捨て、田舎町で穏やかに暮らしている男が、たまたま流れ者のチンピラと対峙したが為に、血塗られた過去を暴かれて…」という昔の東映ヤクザものや西部劇のような展開。香港版『ヒストリー・オブ・バイオレンス』とも言える物語設定だけでも熱くならざるを得ないが、劇中、計三回において繰り広げられるカンフーアクションシーンは、観る者のツボを心得た緩急の付いた構成でこれまたテンションがアガる。とくに元祖片腕ドラゴンのジミー・ウォングに、片腕となったドニーさんが戦いを挑むクライマックスの壮絶バトルは最高に痺れる!



19位 ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン

スラップスティックコメディとシチュエーションコメディのバランスが上手く取れている良作。『サタデー・ナイト・ライブ』出身であるクリステン・ウィグのコメディエンヌとしての才能が遺憾なく発揮されていて、個性的な面々の中でも、もう一人勝ち状態。ストーリーコメディものには必須要素の「失敗からの気付きと成長」もきっちりと描けていて、大暴走する彼女の姿に大爆笑しながらも、その痛々しい程に不器用さに少し切なくなる。



20位 インビテーション フロム スパイク・ジョーンズ(アイム・ヒア、みんなのしらないセンダック)

『アイム・ヒア』は「近未来?のロボットと人間が共存する世界」という趣の設定は変化球なのだが、物語自体はド直球な純愛もの。「ロボット同士の恋愛」という設定と、主人公二人のキャラクターの所為か、何処か『WALL-E』を想起させ、『WALL-E』大好きっ子の俺としては愛着も一入。
ドキュメンタリー作品『みんなの知らないセンダック』は、純粋さと偏屈さを同居させたような老作家モーリス・センダックがとても魅力的で、そんな彼を敬愛する監督スパイク・ジョーンズの交流がとても面白い。作品時間は40分程と短いものだが、かなり中身の濃いインタビューで、センダックの癖のある人柄にニヤリとしつつも、しんみりと感動。


21位 へんげ

主人公が「変化」していく事によって夫婦に生じる苦悩やら周囲から齎される阻害や孤立感とかをもう少し緻密に描いた方がクライマックスの展開が際立つと思ったが、それでも十分に面白かった。大オチに向けての畳み掛けはテンポよく、こちらに瑕疵を感じさせる事なく走り切ったのは上手い演出。ラストで夫の身体が大変身するという設定のを思い付くは、やっぱり監督が子供の頃から戦隊ヒーローシリーズを観たりして、ああいう設定に対して何らか素養が出来ているんだろうなーとも思ったり。



22位 私が、生きる肌

ペドロ・アルモドバル監督の真摯なまでのド変態振りがよく判る作品。江戸川乱歩が綴る奇譚小説のような物語だった。冷静に考えれば「いや、そりゃ無茶苦茶だろw」というような物語で、何処かひとつ間違えたら悪趣味な三流映画に転びそうなところを、端正で美しい映像美、丁寧な人物描写と演出力で最後までグイグイと観てる者を惹き付ける。



23位 トロール・ハンター

「雪深きノルウェーの山奥に伝説の巨大生物トロールは実在した!!!!!」という、なかなかまともに取り合い難い設定で、凡百の制作者なら如何にも斜に構えたパロディにして、茶化して撮ってしまいそうな題材を、衒う事なく真正面から制作していて、そのハッタリ上等の熱き「水曜スペシャル」魂に深く感心させられた。川口浩役であるトロール・ハンター、ハンスの仕事人振りも痺れる。


24位 ヒミズ

園子温監督特有のクセのある演出を残しながらも、「絶望の淵でもがき苦しむ若者を描いた青春映画」としてきっちりと纏め上げていたと思います。個人的には原作の救いの無い終わり方も見たかったが、今回の未来に向いたラストも有り。ただ不満を述べれば、ヒロインである茶沢のキャラ造型がイマイチ。演じる二階堂ふみ自身は素晴らしく、とくに後半は彼女の熱演にグッと引き込まれたのだが。あのキャラ設定だとただの不思議ちゃんに見える。彼女はあのまま女子大生になったらバイト先の大学生に恋しちゃうよ。俺の茶沢さんはもっと普通だけど芯の強い女の子!(妄想)



25位 ドライヴ

「もしも『ヒストリー・オブ・バイオレンス』後のデヴィット・クローネンバーグが甘くも切ないラブ・ストーリーを撮ったら」という趣きの現代版西部劇。美しい映像描写とハードな暴力描写の退避が素晴らしいですな。少しぐらいライアン・ゴズリング演じる主人公のバックボーンを掘り下げるシークエンスがあっても良いとも思いましたが、その辺を謎めかす事で、このシンプルでありふれた内容の物語を「現代のヒーロー神話」として成立させているのかも知れないですな。



26位 苦役列車

オープニングとタイトルフォントの昭和50年代東映テイストが最高に素晴らしい。初期作『どんてん生活』や『ばかのハコ船』でダメ人間の日常を描いていた山下敦弘監督だけあって、主人公の鬱屈した青春を、暗鬱になりすぎず、軽薄に堕さず、味わい深く映像に表現している。主演の森山未來も強烈なコンプレックスと屈折した自尊心と悶々とした欲望を抱えた若者を見事に好演。



27位 アウトレイジ・ビヨンド

前作では極道企業間の派閥争いに振り回される中小下請け極道タコ社長のビートたけしだったが、今作では会社も倒産し、心機一転フリーランスの派遣極道として、派閥争いには我関せずの顔で、雇用先の日雇い殺し屋集団と共に己のやり残した仕事のみを黙々と、時に嬉々として処理していく。周りが状況に翻弄されコントのように右往左往している中、その淡々とした美しさが際立ってました。前作に引き続き安定した面白さだし、ヤクザ役を演じて欲しい役者はたくさんいるので、是非とも北野武監督にはこのシリーズの制作を『男はつらいよ』みたく毎年の恒例にして頂きたい。中野英雄の指が無くなるまでは。



28位 ゾンビ革命 -フアン・オブ・ザ・デッド-

副題にもなっている英題『JUAN OF THE DEAD』の通りこれは『ゾンビ』フォロアー映画の傑作『ショーン・オブ・ザ・デッド』のキューバ版と言ったところ。今作の主人公一味は、ゾンビ騒動の混乱の中、勢いに任せて殺人もするは、騒動を逆手に取って金儲けを企むはとかなりアバウトでタフ。正直「ゾンビジャンルの珍品だろう」くらいの気持ちで観に行ったのだが、アクションシーンやスプラッター描写もしっかりしていてるし、笑って良いのか判断に困るような不謹慎なギャグも満載。キューバの国家体制を笑いに転化した骨太な作りで恐れ入りました。キューバという国は意外と表現活動に関して寛容なんだろうか。シド・ヴィシャス版の「 マイ ウェイ」がかかるラストシーンも最高!



29位 ペントハウス

「日々、不当に搾取されている労働者達が悪徳大富豪にリベンジをする」っていう設定だけで無闇やたらにテンションがアガる痛快コメディ。ベン・スティラーエディ・マーフィというキャスト陣からもっとバカバカしいドタバタコメディかと思ってましたが、予想外に男気溢れたアツい作品。作戦決行のシークエンスは笑いながらもかなり興奮しました。悪役の大富豪アーサーが心底憎たらしいキャラなのも判り易い勧善懲悪ものとしてのカタルシスが得られて良かった。



30位 ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して

2012年はコメディ映画に良作が多かった印象を受けましたが、その中でも今作は、主役も含めて出演者が全員善人なのに中途半端な緩い作りにもならず、キッチリと笑えるコメディ映画として成立させているのが凄いと思いました。ジャック・ブラックスティーブ・マーティンオーウェン・ウィルソンと、どんなドタバタギャグやブラックジョークにも対応出来る面子を揃えながらも、こういうコメディを制作するアメリカ映画界のレンジの広さに感心しました。   



と、ここまでが、ベストテンの映画と同等に好きな作品です。31位以下はまた後日 (いつまで続ける気だ)