紛うことなきガールズムービー 『デンデラ』


ドキッ!女だらけの雪山登山



故・今村昌平監督の息子、天願大介監督作。以前に予告編を観て「酷寒の山に捨て去られた老婆たち…。しかし、彼女等は生きていた!」みたいな煽りに「おお!まさか『姨捨山・オブ・ザ・デッド』か!?」と、ちょっと気にはなっていたんだが、…まあ、そんなワケはないだろうし、おばあちゃんばっかりでキャスティングも魅力ないし、原作も読んでないし、「姨捨山」に興味があるわけでも無し(父・今村監督の『楢山節孝』も未見)だしで、多分、観ないだろうなと思っていたのだが、意外な事にtwitterでの評価が軒並み好評だったので、『ハングオーバー!!』を観に行ったときに、もののついでに鑑賞致しました(流されやすい性格)。1000円だし(その上ケチ)。

冒頭、70歳を迎えた斎藤カユ(浅丘ルリ子)が姥捨て山に捨てられるシーンから始まります。このシーンで息子に背負われたルリ子も「瞳孔開いてんじゃないか?」ってくらいの眼力なんだが、その後、雪深い山中に捨てられたルリ子が、息子が立ち去った後、何をするかと思えば、おもむろに放尿をやり出す訳です。いきなりですよ。もうこの時点で俺は「よし、当たり掴んだ!」と心の中でガッツポーズをしたね。
夜になり気を失ったルリ子。このまま彼女の思い通り極楽浄土へと旅立つのかと思いきや、謎の老婆の集団に助けられ、「デンデラ」と呼ばれる秘密の集落に保護される。朝になり、目覚めるルリ子。そこで目にしたのは「うふふふふ」と不気味に微笑む双子の老婆!なぜに双子!『シャイニング』か!?『シャイニング』なのか!?ちなみに、この双子はこの後、たいして物語に関わらない!
村の老婆にデンデラを案内されるルリ子。ちなみにルリ子や老婆達は名前を呼び合うときに「久しぶりだな、斉藤カユ」とかフルネームで呼ぶんだが、その事についても特に言及はありません。この時代はそういうものなのか!?
そして、デンデラを作った御歳100歳の老婆三ツ屋メイ(草笛光子)と再会する。もう「100歳の草笛光子」って時点で凄いが、彼女がマジで格好いい。30年前に姥捨て山に捨てられて、デンデラを作るまでを回想シーンで辿るんだが、このシーンでの草笛のワイルドさたるや!今までの彼女のイメージがガラッと変わる体当たりの演技ですよ!格好いい!一人称が「オレ」だし!
草笛は捨てられた恨みから、「村人を皆殺しにしてやる!俺等は一度死んだんだ…死んだ人間は強いぞぉ…」と村人への復讐を誓う草笛。そして、50人近くの村人(もちろん全て老婆)を引き連れて村を襲撃する計画を企てる(ちなみに、襲撃に備えての訓練シーンもしっかりあるんだが、これもかなりの見所)。おお!これは正に『姨捨山・オブ・ザ・デッド』!オレが望んだ展開!
それに対し、「復讐など無意味」と草笛に異を唱えるのが椎名マサリ(倍賞美津子)。これが見た目からして最高!隻眼アイパッチのミッコ!アマゾネス(©3年B組)!間違いなく惚れる!!惜しむらくは、なぜ平和主義者の設定なのか!彼女は、「村の人間に片目を潰され、男達の慰みものにされたあげく捨てられた…一番、村を憎んでいるのは私です。でも、村を襲うのは間違ってます」と復讐を止めるよう草笛達を諭す。…いいじゃん!やっちゃえよミッコ!率先して村の男共をバッタバッタと殺っちゃえよ!
まあ、ミッコに賛同しているのは少数派なので、着々と襲撃決行の準備は整います。そして、決行目前のある夜、デンデラに大事件が起きる。人食い熊に村を襲われたのだ。乱れ飛ぶ老婆の生首や手足!血みどろで悶え苦しむ老婆達!予想外の展開!『老婆50人vsグリズリー』!素晴らしいじゃないか!ちなみに熊は着ぐるみ感満載!見せ方も何故か昔のアニマルパニック映画風!わざとか!
そして、生き残った老婆達による人食い熊へのリベンジが計画される。ここで、草笛光子に協力を促された際の、倍賞美津子の「デンデラを守る為なら…協力しましょう…」って台詞には超痺れた。来たぜ!ミッコ!熊vsウィリー、熊vs藤原組長に次ぐ、熊vs倍賞!
そして、デンデラの全員が一丸となった激闘の末、運も味方をし、2頭の人食い熊を撃退する。すげー!熊に勝ったよ、おばあちゃん!戦利品の熊汁を喰いながら、喜びの宴を行う面々。そして、それを見守る草笛光子。ああ、良かった…。
数日後、残った面々で村へと復讐に向かう草笛一行。自分たちを捨てた村へ対する思いは違うが、苦楽を共にした仲間達を不安そうに見送る倍賞美津子…。俺の脳内BGMでは『いつも一緒に』が流れる!(元夫・アントニオ猪木の入場テーマ曲『炎のファイター』に歌詞を付けて、彼女が歌った曲)


いつも一緒なの 愛があるから

男は戦いに 今日もまた 出かける

女はただ 待つだけ

何ひとつ 手につかず おろおろしている

長すぎる一日

いつも一緒なの 愛があるから


                   倍賞美津子『いつも一緒に』

いや!女も戦いに出かける!老婆も戦いに出かける!


この時点で、そこそこお腹いっぱいなんだが、まだ物語の半分ぐらいだ。続きの怒濤の展開は是非、劇場で自分の眼で確かめて下さい!!(ちなみに後半はルリ子のターンですよ)


…まあ正直、全体的に少し間延びした感もあるし、前にも述べたが熊は着ぐるみ全開だし、見せ方が下手な所も多いし、行動理由が判らんシーンもあるし、物語のテーマは伝わりにくいし、残念なところは山ほどあるんですが、それを補って余りあるパワーが漲った面白い作品でございましたよ。







・寡黙な弓矢の名手、保科キュウ(山口美也子)も渋くて格好いいです。でも俺は途中まで宮本信子と思ってました。
・後半、熊に戦いを挑むルリ子が被った頭巾が、真知子巻きのスカーフみたいで、ちょいと可愛かった。
デンデラの老婆達は死ぬときに何故か「でんでら〜!」と叫びながら死にます。もちろん、理由は説明されません。