私的シネマランキング2011 ベストテン

去年と同じく、今年劇場で鑑賞した映画全108本(リバイバル、特集上映を除く)をランキング形式で発表したいと思います。はてさてどうなることやら。

まずは、早速ベストテンから。


1位 スーパー!

二回目の鑑賞からは、まるでハッピーエンドのヒーロー映画のエンディングのような、多幸感溢れまくりの爽快な手書きアニメ風のオープニングを観ただけでも泣けてくる…。
愛する者の為にスーパーヒーローになろうとした冴えない中年男性が、困難や犠牲を経て、市井の人に還るおはなし。後で知ったのだが「super」という単語には「すごい、素晴らしい」的な意味以外に 「(物語の)端役、通行人役」って意味もあるそうだ。
よく引き合いに出されていたが、あのラストシーンの、壁に貼られた前妻の子供達から贈られたであろう幾枚もの絵を眺めるくだりは、『タクシードライバー』でのトラヴィスを英雄視した新聞記事の切り抜きやアイリスの両親から感謝の手紙が貼っているシーンや、または『アバウト・シュミット』での、シュミットが養父として援助しているアフリカの少年が描いた絵を前に涙するシーンを想起させる。どちらも幸せな終わり方じゃない。結局は何も変わらないし、結局は皆、孤独に還る。……まあ、それでも、あれだけの事をした主人公に対して、あの終わり方では少し甘いとは思いますが。*1
ただ、映画として瑕疵も多いし、真っ当な倫理観から考えれば、はた迷惑なキチガイのおっさんの話なので、否定的な意見があるのも判ります。でも、いいんだよ!こんな世界、狂わないとやってられるか!!てか、俺は「せめて、映画の中でくらいヒーローとして殺してやってくれ」と思ったよ!


あ、もちろん、今作でもエレン・ペイジは完璧ですよ。徹頭徹尾キチガイ少女で最高です。はっきりいって、彼女が魅力的だったのが1位の要因のひとつ。



2位 メアリー&マックス

観る前は「大人の鑑賞にも堪えうる(大嫌いな表現)ちょっと感動のクレイアニメーション」くらいの気持ちで高をくくってたのだが大間違いでした。陰鬱でシリアスなテーマを、真摯で且つ優しい視点で描かれている、脳みその奥深くまで感動が響き渡る素晴らしい作品。これはクレイアニメーションという表現方法だから成立する作品なんでしょうね。実写映画だったら重すぎて観ていられないと思う。まあ普段からネガティブ思考なんでメアリーにもマックスにも感情移入しまくりでしたよ。何というかメアリーとマックスの距離感が良い。各々の住む世界の色合い(マックスの世界はモノクロ。メアリーの世界はセピア色)からも推し量れるように、二人の生きている人生は別々。お互いが抱えている孤独も似通っているようでいて実際は異なるもの。だから全て理解しあえる訳がない。けれども、それぞれが違う道を歩む中で、時折、交わることがある。それでいい。俺は、普段からTVなどで見受けられる「君は一人じゃない」的なメッセージに違和感を感じる方なので、この作品くらいの距離感がちょうど良かった。終わり方も救いがないと言えばそうなんだけど、全てが集約された素敵なラストだと思います。「The Typewriter」であるとか「Que sera sera」とかベタな音楽の使い方も好み。



3位 塔の上のラプンツェル

鑑賞後の多幸感は今年一番でした。ホントに最初から最後まで全て良く出来ていた素晴らしい映画。母親の偏愛に束縛され続けた少女が、それを断ち切り自由で自立した世界へと旅立つ不安と喜びを描いたおはなし。個人的に3D映画には食傷気味だったんだが、今作は3Dの効果が巧みで違和感なく使われており、3D作品にありがちな「ホラ飛び出してるでしょ?」「ホラ奥行きがすごいっしょ?」みたいなドヤ感がなく、ごく自然に世界観の中に調和されていた。そして、唯一3Dの「飛び出し効果」を遺憾なく発揮させたラプンツェルが憧れ続けたランタンの灯りのシーン。そのあまりの美しさに思わず俺も劇場内で少しだけ手を伸ばしました。主人公のラプンツェルもとても魅力的。とくに母の禁を破って塔から出たときに見せるハイとロウのループはとても可笑しくて愛らしい。それとヘンな表現だが、彼女の演技力が素晴らしかった。『トイ・ストーリー3』の時も3Dキャラの演技力に驚かされましたが、今作はそれ以上。ラプンツェルは表情だけで演技が出来る名女優!当初、不安の種だったしょこたんの吹き替えもお見事。



4位 スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団

格闘ゲームを始め、様々の8bitゲームや音楽に彩られているが、根底に流れているのは「好きになった女の子が実はビッチだったけど、あなたならどうする?」というテーマのド直球な恋愛映画。鑑賞中に思い起こしたのはケヴィン・スミス監督の『チェイシング・エイミー』だった。
よくネット上で使われる冗談で「リア充、爆発しろ!」*2ってのがあるが、今作で示しているのは「リア充は爆発しない」もとい「リア充は爆発を厭わない」ということ。たとえ爆発したとしても経験を積んで1upをしてコンティニューをし、同じステージを愚直にやり直してレベルアップをし、過去の失敗を活かしてステージクリアを目指す。これは恋愛だけに関わらず、生きて行く上では当然必要な事柄。爆発しろ!とかいう人は、その前に、彼のように爆死も耐えうるタフネスさを身に付けるべきだね。

でまあ、俺もスコピル君の勇気やタフさを見習いたいので、とりあえず、まずは17歳の女子高生とお付き合いを…(俺が爆発しろ)



5位 ラブ・アゲイン

3世代の恋愛模様を軸に、どんどん派生していく物語を、中盤に見事に集約し大爆笑させた後に、最後にグッと感動的な収まりをつけた素晴らしい作品。主要キャストが全員魅力的。スティーヴ・カレルは今回も冴えない男がハマってたし、『ラースと、その彼女』『ブルーバレンタイン』とカレルと同じく冴えない役のイメージが強いライアン・ゴズリングのプレイボーイ役もサマになってました。てか、彼だから後の純愛展開も納得出来たのかも…。女優陣も何役をやっても無駄に艶っぽいジュリアン・ムーアや、中盤で予想外の展開を見せる「ライアンの彼女役」のエマ・ストーンは勿論、素晴らしかったし、かなりクレイジーな役柄で扱いによってはかなり嫌悪感を抱くか、可哀想な役柄になりそうなマリサ・トメイも素敵でした。そして個人的にツボだったのはカレルの息子役のジョナ・ボボと、その子守役のアナリー・ティプトンちゃんですね。中学生時代にあんなお嬢さんが傍にいたら俺もイカレてるよ。判るぜ!判るぜ、坊主!!…でも、ベーコンさんの扱いだけちょっと可哀想でしたね。
まあ、冷静に考えれば、どいつもこいつも言ってることもやってることも滅茶苦茶じゃないかという気もしますが、滅茶苦茶でいいんだよ!原題は「気の触れた、愚かな、愛」なんだから。



6位 ミスター・ノーバディ

物語の主軸は主人公の少年ニモの成長と、その過程で出会う3人の少女との恋愛。そして、そこからの選択肢により様々な人生模様に派生していく。その物語全てが一編の掌編・短編映画として成立するほど丁寧に作られており、それを断片的に鏤めている。よくミュージシャンのアルバムを褒める際に「捨て曲無し」という言葉を使うが、この映画には「捨て物語無し」という言葉を贈りたいです。CG全盛のこの時代ならではの極限表現ともいえる圧巻の映像美の連続で観る者を惹き付け、且つ『バタフライ・エフェクト』辺りを想起させる平行未来の複雑な物語を巧みな編集と小気味よいテンポで、最後まで緊張の糸を途切れさせる事無く魅せるジャコ・ヴァン・ドルマル監督*3の腕前には感服しきり。…だが、極彩色の大風呂敷を最後は畳みきれなかった感もあります。まあ、あそこまでの美しい映像表現と巧みなストーリー展開で物語を運ばれたら、最後にどんなエンディングを持ってきても、多少の不満は感じたとは思うけどね。物語自体は過去のSF作品とかで散々語られたような設定だったけど、それを真摯な迄に完璧に映像化しているので、不思議と古臭さは感じませんでした。



7位 冷たい熱帯魚

でんでんから諏訪太朗まで、登場人物の配役が全てハマってた印象。過去感想に書いたように、残酷な行いばかりのシーンでも不謹慎かなと思いつつも爆笑してたんだけど、今思えば、「みんなー!ハッピーかーい?」でおなじみの『お笑いスター誕生!!』出身のでんでんと、「ロボコップ演芸」などの持ちネタもある、元「WAHAHA本舗」の吹越満が主演なんだから、笑えるのも当然なのかな。

過去に書いた感想



8位 X-MEN:ファースト・ジェネレーション

熱い!アツすぎる!今年一番、純粋に燃えた娯楽作品。チャールズとエリックのBL的関係性に萌えた作品でもある。ただ、今思い起こせば一番印象に残っているのは、クライマックスでチャールズの能力のより動きを止められた筈のケヴィン・ベーコンが小刻みにぷるぷる震えているシーン。

過去に書いた感想



9位 大鹿村騒動記

最近、当り作に恵まれなかった阪本順治監督の起死回生の一発となった作品。勿論、今年7月に惜しくも他界した主演俳優・原田芳雄の遺作でもあるのだが、そういう事は抜きにしても、多くの人に観てほしい痛快喜劇。

過去に書いた感想



10位 たまの映画

元々、俺は「たま」というバンドに思い入れも知識もあんまり無かったのですが(メンバーの顔と名前は一致する程度)それでも、十分に楽しめました。今作は、この手の解散した人気バンドの回想ドキュメンタリーにしては珍しく過去の映像は出てきません。元たまの3人とそれを取り巻いた周囲の関係者の過去回想と、各々の現在の活動を追いかけた映像がメイン。だから、彼等の人気絶頂期を懐かしみたい人には肩透かしかもしれませんが、俺はこの方が良かったと思います。なぜなら、現在の元たまのメンバー3人がそれぞれ個性的で、その各人の語りと現在のライブ風景が魅力的だったから。現在の姿が魅力的ってのは素晴らしい事ですよ。とくにラストの知久寿焼の歌や、パスカルズ(知久と石川が参加している大所帯バンド)のライブ演奏から溢れ出す多幸感は素晴らしく、近くにライブで来たら是非とも観に行きたいと思いました。
何より、各人が口を揃えて「やりたい事が出来ていて楽しい」と前向きな発言をしていたのがすごく良かった*4。もしかしたら虚勢かもしれないし、世間的には一発屋で不幸なイメージとかありそうだけど、みんないい歳をしたオッサン達になりながら自分のペースで着実に歩いてて、すごく魅力的に映ってる。それが一番素晴らしいです。当時の狂騒の中でボロボロに消耗されながらを活動してきた彼等の口から、その言葉が聞けてホントに良かった。だからタイトルは『たまの映画』ですが、内容はあくまで現在の姿を主題に描いた『「元」たまの映画』という印象です。
ただ最初に「3人」と言ったように、残念ながら今作には解散前に脱退した柳原幼一郎は出てきません(オファーはしたが本人が拒否)。でも個人的に(多分、世間的にも)「たま」といえば4人なので、『たまの映画』としては不完全だと思います。是非とも、今泉監督には柳原を含めた4人での『たまの映画:完全版』を撮って頂きたいです。絶対面白いよ。



…というわけで


1位 スーパー!
2位 メアリー&マックス
3位 塔の上のラプンツェル
4位 スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団
5位 ラブ・アゲイン
6位 ミスター・ノーバディ
7位 冷たい熱帯魚
8位 X-MEN:ファースト・ジェネレーション
9位 大鹿村騒動記
10位 たまの映画


以上が2011年のベストテンです。11位以下を含めた全作ランキングはまた後日。

*1:理想としては施設か何かで子供から贈られてきた1.2枚の絵をウサギのぬいぐるみでも抱えながら虚ろな目で観ている…くらいが丁度いいよ

*2:便宜上、使用してますが「リア充」って表現はあまり好きではありません

*3:てか、『八日目』から13年間、何やってたんだ?

*4:とくに「たまのランニング」こと石川浩司が居酒屋でうつ向き気味に、現在の四人を「でも、みんな音楽だけで喰っていけてて、嬉しい」と語るシーンは、それまでの彼のイメージからのギャップでちょっと泣きそうになった。