財力と、それ以外の力がバロムクロス!! 『グリーン・ホーネット』

あ、ごめんなさい。バロムワンよく知りません・・・・

新聞社の社長のボンクラ息子・ブリット(セス・ローゲン)。ある日、父が蜂に刺され急死したことで急遽、社長の座に就く事となる。彼は父の運転手をしていたアジア人・カトー(ジェイ・チョウ)とコンビを組み、悪党に近づく為の手段として、悪党を装った正義のヒーロー「グリーン・ホーネット」として真の悪党たちに挑む…


ミシェル・ゴンドリー監督作。2Dでの鑑賞です。主人公の設定をざっくり言うと「ボンクラ度5割増しの『アイアンマン』」といった趣です。彼はトニー・スタークからカリスマ性と才能を欠落させたような人物で、残っているのは財力だけ!でもそれも親父の残してくれた遺産!!という、映画の主役としては、なんら憧れる事の出来ないというか、どっちかというとコレ悪役のキャラ設定だろと思わせるものでした。ヒーローになる動機も「なんか悪人よりカッコよくね?」的な軽さだし。
なので、活躍するのはもっぱら相棒のカトー君でして、彼ってばコーヒーメーカーからガジェット満載の愛車「ブラックビューティー」まで、何でも作れる天才発明家だし、いざ悪党たちとバトルになったら、驚異的な動体視力で敵を一網打尽できる腕っ節の強さもありだし、非の打ち所が無い完璧な人で、正直、彼だけで活動すりゃいいじゃん!そりゃ女性秘書レノア(キャメロン・ディアス)もダメ社長じゃなくてカトー君の方をデートに誘うわ!てなトコなんですが、良く考えたら彼の発明費用はブリット(の父が残した遺産)から出ている訳で、それが無いとカトーの折角の才能は世に埋もれてしまうんで・・・、そういう意味ではいいコンビなんでしょうか。なんつーか、お金の力って恐ろしいですね。
あと主人公達と敵対する暗黒街の大物ベンジャミン・チュドノフスキー役には、タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』に於いて、みんな大好きランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツ様が起用されております。今作では「ミドルエイジクライシスマフィア」という難しい役柄をこなしてらっしゃいました。初登場のクラブのシーンから最高でして、クラブを牛耳っている若いマフィアに「ショバ代を払いやがれ!」と一説ぶちかましたかと思えば、いきなりその若造から「なんだオッサン!テメー服もダサいし、名前も発音しづらいし、これからは俺等の時代なんだよエーオラ!」的な逆アップかまされまして、その途端「えっ?俺が怖くないの・・・俺ダサいの・・・」と不安げな表情をしだすんですよ!もう「え・・・まさかランダ大佐いきなり死んじゃうの?ランダなのに?」とドキドキしてしまいましたね。物語の中盤でもグリーン・ホーネットに憧れたのか、急に「俺、今日からブラッドノフスキー改名する!んで、赤い服着る!!」とか意味不明な事を言い出しますし。そりゃ部下も「え?え?何すか?」ってキョドちゃいますよ。はっきり言ってチュドノフスキーの精神不安定っぷりをだけでも観に行く価値はあります。
「ボンクラアイアンマン」以外にも、「もし『キック・アス』の主人公がオタク青年ではなくてボンボン社長だったら・・・」といった風にもとれますね。動機はともかく、どちらもヒーローに憧れる普通の人だし、主人公より頼りになる相棒ヒットガールはカトーが担ってるし、敵役のレッドミストは勿論、チュドノフスキーですね。途中から主人公の影響でキャラチェンジをするっていう。ほら、どっちも赤基調だし!赤基調だし!んで、ビックダディは死んだブリットの父親ですね。彼はカトーの育ての親にも当たる訳だし、彼の遺産が無いと武器も用意できないし・・・。うん、書いてる途中でちょっと強引だなって気はしてた。
てな感じで、ヒーローアクションとしては楽しく観られるんですが、ただミシェル・ゴンドリー作品として観てしまうと物足りない部分も多くて、おそらく今作は雇われ監督だったのではないかと思われます。ただ彼ならではの演出が冴えわたったシーンも幾つかあって、チュドノフスキーのグリーン・ホーネット暗殺命令が、手下たちにスプリットイメージでどんどん拡散されていくシーンや、ブリットが父親の死に隠された真実に気が付く回想シーンでは、いかにも彼らしい独特な演出方法で描かれており、思わずニヤリとさせられました。まあ、その結果、作品の流れとのバランスが合っていないという事態に陥ってましたが。まあ、この辺は監督のファンへ向けたサービスなんでしょうかね。
他にも演出で言うと、全編に渡って破壊描写がとても過剰で、とくにクライマックスに至っては、莫大な予算を投じられる嬉しさからなのか、コメディ的とも感じられる程のやりすぎっぷりで気持ちがいいくらいでした。「車ごとエレベーターにドーン!!」のシーンとか、一応は緊迫した場面なのに笑ってしまいましたよ。あとコメディ的な破壊シーンでは、ブリットとカトーの痴話喧嘩で家の中のものをバンバン壊しまくって延々と格闘している場面も印象に残っています。痴話喧嘩ですね。わざとらしい程にホモっぽいですから。多分『バットマン』的なキャンプ感をギャグとして出しているのかなと思いましたが、演出の妙でマジなのかネタなのか判らない按配になっています。
このようにキャラ設定や演出効果等を含め、全体の展開は軽妙というか、まあ馬鹿っぽいので、近年のアメコミ実写化に多いシリアス描写とは真逆の路線だと思います。なので好き嫌いが分かれる所かも知れませんね。ストーリーに重きを置くと厳しいかも知れません。おれは肩の力を抜いて楽しめました。


あと気になった部分を箇条書き

・初めてグリーン・ホーネットとして出動するときに、車の中で二人してCoolio?の曲を歌ってるけど、『キック・アス』でもキックアスとレッドミストが車に乗って巡回している場面で、Gnarls Barkleyの曲を歌ってるよね。アメリカでは、野郎が二人して調子に乗る時はヒップホップで大盛り上がり!ってのが定番なの?
・おれは今作を2Dで鑑賞したんですが、鑑賞中に、3Dを意識した演出をしていると感じれたのはエンドロール部分だけでした。エンドロールだけ3D公開とかしてくれないだろうか。プラス50円くらいで。
・ヤクの密造人みたいな役でエドワード・ファーロング君が出てるんだけど…噂には聞いていたが、あまりにもの変貌ぶりに愕然としたよ。んでまたランダ大佐にぞんざいな扱いされるんですわ。ああ…
・徹頭徹尾、良い所の無いグリーン・ホーネットですが、クライマックスで「オフィスチェアーのキャスター部分を振り回しての敵に飛びかかる」姿は必死になっていてカッコいいかなと思いました。
・ネタばれ的な話で、寿司USBのアレは意味あるのか?という所ですが、アレは「活字媒体が衰退し、ネットでの情報化社会が発展しているが、案外データなんてのも当てにならないもんだぜ。新聞万歳!」という事を述べたいんだと思うんですが、演出の妙で(ry
・「ヒロインとしては若干お年を召されたキャメロン・ディアスに、ブリットとカトーが恋の鞘当てを演じるってのはちょっと無理がありませんか?」という質問につきましては、「二人とも母親不在の家庭で育ったから、しっかりした大人の女性に惹かれるんだよ。そんなもんなんだよ。決して大人の事情じゃないんだよ」という回答を提示しておきます。