カントナならこう言うね  『エリックを探して』


ケン・ローチ監督の新作。主人公の冴えない郵便局員エリックは、再婚した妻に逃げられ、残された妻の2人の連れ子と暮らしているが、不良グループに仲間入りした彼らには馬鹿にされている。今でも離婚した1人目の妻リリーにまだ未練はあるが、相手にされない。そんな状況で落ち込んでいる彼の前に突如、憧れのキング、エリック・カントナが現れる・・・


おれはサッカーにはホントに疎くて、マラドーナ(缶コーヒー)とジーコ(レイク)とペレ(ED)あと誰だっけ・・・くらいの知識レベル。なので今作のメインキャラクターであるエリック・カントナの事も全く知らなかったんだけど、十分楽しめましたね。それは一見粗野な風貌でちょい悪っぽいのに、口を開けばフランス語で格言をひけらかすという妙な彼のキャラクターに依る部分が大きい。時折おれは、勝手にアントニオ猪木とか前田日明に脳内変換して観ていた。
ただ、彼のキャラクターを活かした脚本になっているらしいし、往年のカントナの名場面は盛り沢山なので、彼のファンやサッカーファンの方が数倍楽しめるのは間違いないと思います。
今作のエリック・カントナは主人公のイマジナリーフレンド(想像上の友人。この場合はイマジナリーヒーローかな)的な役割として登場している。その尊敬するカントナ様から叱咤激励を受けていく事により、もう一度自己を省みていくという事なんだが、ここに出ているカントナは、あくまでも主人公の頭の中でイメージしている"キング"カントナ様なのだから、彼が教示する数々の助言は主人公自身の「こうなりたい、こうしてほしい」みたいな潜在意識下の願望なのだろう。主人公の名前が同じエリックなのもおそらくその為では。タイトルの『エリックを探して』(原題 Looking for Eric )というのも自分自身の生き方を見つけ出すという意味も含まれているのかなと思った。
ケン・ローチ監督の作品らしく労働者階級の目線で生活を描かれていて、家庭環境とか結構ドン詰まり状況なのだが、暗くなりすぎる事無く、全体的に軽妙なタッチで展開される。とくに局員仲間とのやり取りが最高で、ずっとニヤニヤして観ていた。
主人公のエリックの造形も素晴らしく、正直、主人公の行動に共感できない部分も多いのだが、「まあ、彼だったらしょうがないかなあ・・・」と思わせる"イイ顔"をしていた。常にヨレヨレで情けない男なのだが、目が妙につぶらで何故か憎めない顔。一時のウィリアム・H・メイシーを凌ぐ愛すべきダメ親父。この人と同僚のミートボールを眺めているだけで幸せだったよ。

映画のエンドロールで、エリックの「俺は漁船を追うカモメ以下なんだ!」という発言の元ネタになってる記者会見の映像が出てくる。あの映像からも彼のキャラが垣間見えるのだが、あれもファンなら有名な話なのかな?